HD マップとは
HD マップ(高精度地図、High-Definition Map) は、自動運転スタックが直接読み込むことを前提にした、センチメートル精度・機械可読の道路ネットワーク記述です。人間のドライバーが読む地図ではなく、プランナー・位置推定・予測・知覚モジュールが「世界はこうなっているはず」という前提として参照する地図、と言い換えてもよいでしょう。実用化されている自動運転車(AV)や高度な ADAS のほとんどで、HD マップは欠かせない入力の一つになっています。
このページは HD マップの中立な入門記事であり、最後に drawtonomy が関わる範囲を整理します。
HD マップに何が入っているか
Section titled “HD マップに何が入っているか”最小限でも、おおむね以下の情報が入っています。
- レーンジオメトリ — 各走行レーンの中心線・左境界・右境界。多くは折れ線、もしくは解析的な曲線として表現されます。
- レーントポロジー — 交差点での前後関係、車線変更・合流・分岐の接続関係。
- 規制要素 — 信号機、標識、停止線、制限速度、優先関係、横断歩道。
- 静的な道路要素 — ガードレール、路面標示、レーン種別(バス専用、自転車レーン、駐車レーン)、路面属性。
- 参照座標系 — 緯度・経度・標高に加えて、ローカル座標系や点群アンカーが併設されることもあります。
これらが揃って初めて、プランナーは「自車の左隣のレーンは何か」を問い合わせ、位置推定はリアルタイムのセンサーデータと既知の世界を照合し、知覚モジュールは「ここに標識や信号があるはず」という事前情報を活用できます。
HD マップと SD マップ、そして OpenStreetMap
Section titled “HD マップと SD マップ、そして OpenStreetMap”境界は曖昧ですが、ざっくり以下のように整理できます。
| レイヤ | 精度 | レーン情報 | 主な利用者 |
|---|---|---|---|
| SD マップ(標準地図) | 道路レベル | ほぼ無し | カーナビ、ルート探索 |
| OpenStreetMap | 道路レベル、クラウドソース | 任意のタグ | 汎用 |
| HD マップ | センチメートル精度 | フルなレーン・規制モデル | AV プランニング・予測・位置推定 |
OpenStreetMap(OSM)は一部の HD マップフォーマット — 特に Lanelet2 は OSM-XML に独自のタグを付け足した形式 — の基盤として使われていますが、生の OSM そのものは HD マップではありません。
主な HD マップフォーマット
Section titled “主な HD マップフォーマット”HD マップの世界にはいくつかの活発なフォーマットがあります。drawtonomy が直接扱うのは次の 2 つです。
- Lanelet2 — OSM-XML ベース。FZI で開発され、Autoware の主要な HD マップ表現として広く使われています。ジオメトリは折れ線(linestring)で、トポロジーと規制要素は relation として明示的に持ちます。
- OpenDRIVE — ASAM 標準。線・円弧・クロソイド・多項式といった解析的な曲線を扱い、CARLA、esmini、IPG CarMaker、RoadRunner などのシミュレータが事実上の標準として消費します。
このほかにも NDS(Navigation Data Standard)、HERE HD Live Map、各 OEM 独自のフォーマットなどがありますが、drawtonomy は現時点ではこれらを直接の対象にしていません。
HD マップの作り方
Section titled “HD マップの作り方”都市スケールの HD マップを作る作業は、本質的に測量レベルの仕事です。専用のモバイルマッピング車両、手作業のアノテーション、LiDAR / カメラからのレーン自動抽出、そして人手による QA を組み合わせます。よく使われるツールには次のようなものがあります。
- TIER IV Vector Map Builder — ブラウザベースの Lanelet2 エディタで、規制要素まで含めて編集できる。
- JOSM + Autoware Lanelet2 プラグイン — デスクトップの OSM エディタ。
- MathWorks RoadRunner — HD マップとシナリオの両方を扱える、業務で広く使われているツール。
- Autocore MapToolbox — Unity のプラグインとして動く Autoware 向け Lanelet2 エディタ。
測量精度の HD マップが必要なときは、これらのツールが第一候補になります。
drawtonomy が関わる範囲
Section titled “drawtonomy が関わる範囲”drawtonomy は測量レベルの HD マップ作成ツール ではありません。あくまで運転シーン向けのブラウザホワイトボードです。それでも、HD マップを扱う流れの中で、いくつかの控えめな場面では役に立ちます。
- HD マップを作る前の下書き。新しい交差点や小規模な道路網のレイアウトを、JOSM や Vector Map Builder に取りかかる前にざっと眺めたいとき、drawtonomy の上で数分のスケッチで済ませられます。
- 既存 Lanelet2 マップの局所的な編集。drawtonomy は Lanelet2 の OSM ファイルを読み込み、レーンのジオメトリを画面上で編集して、Lanelet2 として書き戻せます。エクスポーターのドキュメント に書かれているとおり、規制要素は sidecar 経由で ラウンドトリップは保持されますが UI からの編集はまだ実装されていません。規制要素を本格的に触るときは Vector Map Builder や JOSM が向いています。
- HD マップに関する図。論文、スライド、設計ドキュメントで「HD マップとは何か」を説明する場面では、レーンや接続関係・規制要素のきれいな図解が必要になります。drawtonomy はこの図を作るのに向いています。
- 小さなマップから簡易シミュレータへの導線。Lanelet2 のスケッチを OpenDRIVE 1.8 + OpenSCENARIO 1.3 に書き出し、esmini 向けの zip として束ねられます。ただし現状は OpenDRIVE の
<junction>要素や解析的なクロソイドを書き出さないため(エクスポーターアーキテクチャ を参照)、本格的な HD マップではなく小さなシーン向けの動線です。
都市スケールの HD マップを作るときは、引き続き測量レベルのツールを使ってください。drawtonomy はその合間の「スケッチ・図解・局所的な手直し」を担当する、小さなブラウザキャンバスです。
同じ HD マップエコシステムの中で
Section titled “同じ HD マップエコシステムの中で”drawtonomy は、既存の標準的なツールが揃っているエコシステムに、小さく加わる側です。あわせて読むと位置関係が見えやすいページを並べておきます。